本校(神田女学園)では、教科の枠を超えた授業を実践し、生徒の思考力や創造力、主体的に取り組むモチベーションを高める教育を行っている。また、学校生活の全てを「探究型」にしているため、「教科の枠を超えた授業」「生徒主体の取り組み」、そして「探究型の学校生活」の全てを含めて、本校独自の「リベラルアーツ教育」としている。それらの様々な活動の中で、今回は「教科の枠を超えた授業」、いわゆる「学際的授業」の具体的な事例を紹介したい。中学2年の「国語(現代文)」の授業をベースにした「理科(生物)」との学際的授業である。
現代文のテーマは、「歴史の物差し―水月湖の年縞」(山根一眞)である。本文の読解を進めるに従い、科学的な知識を求められる部分が出てくる。ほとんどの授業では、教科に関係のない部分は「説明の箇所」として読み進め、場合によっては基礎知識がない中でも、高い理解力を求め、定期試験の「問い」にもするようである…。
しかし、本校の学際的授業では、
- 2012年パリのユネスコ本部で開催された「第21回国際放射性炭素会議・パリ2012」で、福井県若狭町の水月湖の年縞が世界の歴史の標準時となるまでの研究の記録を学習。
- 教科書の本文には、水月湖の年縞が数万年に渡って残った条件が科学的に書かれている。その分析に用いられたのが、炭素14の値であることを理科的な探究で理解を深める。
- 文章の内容をより深く正確に理解するために、基礎知識を理科の授業で学び、図や絵を用いて水月湖の自然環境や炭素14について解説を行った後に、現代文の授業で本文を読み進める。
という内容を理解するために、教科の枠を超えたコラボレーション授業をしている。このケースでは、生徒たちは科学的知識を得るとともに、本文の内容を論理的に読むことができるようになっている。また、授業を担当した教員からも、「理科の観点では、高校生レベルの内容であり、中学2年生の国語の文章として扱うことに驚くとともに、そのまま読解させることで本当に深く理解できるのかを危惧していた。しかし、授業を進めていくうちに、この文章はこういうことが言いたかったのか!という生徒たちの声を聴き、専門知識がなくても文章を読み解く力がつけば、概要をつかむことができることと、理科の知識があれば、より深く真の意味を理解できるようになること、を改めて実感した。」という声も聞かれた。
本来であれば、このような学習は、どの教科でも日頃から行うべきであるが、教科ごとの区分や時間などの関係で難しいのが実情の様である。しかし、日頃から学際的な授業を行っているため、本校では中学2年生の授業でもスムーズに展開できるのである。本校では、年々理系・医療系に進学を希望する生徒も増えてきていこともあり、単なる文章読解や体系的な知識の整理にとどまるだけでなく、自然科学のおもしろさや研究することへ興味を持ってもらうような「探究型の学習」と「学際的な学び」を日々行っているのである。
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(参考文献)
大気中の二酸化炭素には、一定の割合で炭素14が含まれている。植物は光合成によって二酸化炭素を取り込んでいるため、植物が光合成を続けている間は、植物内にも一定の割合で炭素14が存在し続ける。しかし、例えば落ちた葉では、光合成はもう行われないので、新たに炭素14が取り込まれることがなくなり、葉の中には生きていた間に取り込まれた炭素14だけが残る。この残された炭素14は、長い時間をかけてゆっくりと、きまった速さで減っていくことが分かっている。この性質を利用すれば、枯れ葉(古い時代では葉の化石)の中に残る炭素14の割合を調べることによって、落葉してから何年が経過したかが分かる。人間も動物も植物を食べているため、炭素14による年代測定は、人間や動物でも行うことができる。古代のミイラでも測定が可能なのである。
「歴史の物差しー水月湖の年縞(山根一眞)」より
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