長期間にわたる休校措置は、学校や生徒たちに大きな影響を与えている。徐々に経済活動は回復するであろうが、教育活動の停止は、生涯に1度の貴重な学校生活を約3か月も止められた代償は大きい。特にオンライン等での対応が遅れたり、できなかったりした学校に通う生徒たちの心情は推し量るに忍びない。ただでさえ、大学入試改革が叫ばれていた学年だけに、結局、入試改革も大きくは変わらず、休校措置で学習の機会さえも失われているため、高校3年生には、大きな焦燥感や不安感が残っていることだろう。
それを解決するための一つの方法として、にわかに「9月入学」という案が出始めている。もちろん、学習進度・履修範囲の遅れや失われた学校生活を取り戻すには、良いアイデアではある。しかし、それ以上に入学時期と卒業時期を変更するには、想像以上の複雑な背景や環境があるはずで、急激な変化は難しいと考えている。仮に9月入学にシフトしたとしても、メリットが出るまで、5年から10年はかかるだろうから、現在の生徒を救済する有効な手段には、ならないかもしれない。まして変更を決めたとしても、今年からの導入は難しく、翌年から…ということになれば、それこそ現在の生徒達への十分な救済措置にもならないため、メリットよりもデメリット、すなわち生徒達への影響の方が大きくなってしまうだろう。
9月入学を支持する教育関係者の中には、グローバルスタンダードに合わせて…という意見もあるが、そもそも欧米だけがグローバルではなく、日本も留学で人気のオセアニア地域もグローバル社会に含まれている。全員が欧米の大学や海外の企業に就職するわけではないので、欧米を見据えたグローバル化のための9月入学にする緊急性があるとも思えない。とはいえ、大学入学(卒業)の面では、9月入学の方がメリットはあるのは事実であるので、幼少期から全て変えるのではなく、高校の在籍を2年半にするとか、大学を3年半で終わらせるなど、高等教育での変更を検討するほうが現実的であるように考えている。
しかし、いずれは9月入学が求められる時代も来るであろう。その時には、現在よりも多様な価値観やグローバル化が進み、9月入学でないと圧倒的に不利な環境になっていることだろう。世界の労働人口が増加し、日本の大学卒業では国内以外にチャンスがない場合とか、日本と少数か国だけが4月入学で他の国々が9月入学…というような環境になった時ではなかろうか。あるいは、社会全体の理解が進み、4月入学だけでなく、9月入学も選択できる社会的風潮が整ったり、年齢ではなく学習歴によって学年を選択できたり、学習状況によって在籍する学年を変えることができたり等、学び方に柔軟性が求められる時代背景が整ったときかもしれない。今回の「9月入学」は、教育に対する関心を深め、積み残してきた課題に目を向けて、みなが考える大きな契機になったと思う。また、固定観念を崩して物事を考えるきっかけにもなったように思える。9月入学に限らず、学校での学び方や卒業の意義など、教育全般に関する議論が進んだことに大きな意味があった。本当の学びのためにも、9月入学を端緒として、教育環境を取り巻く課題について検討を深めていきたい。
ちなみに、本校では「2020年度入学式」を簡素化することを避け、延期に次ぐ延期などの混乱をなくすために、早々に「8月下旬に入学式」の日程を設定させていただいた。夏服での入学式…、これも革新的な取り組みの一つとして認知させる日が来るかもしれない…。
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